2017年世界大学ランキング
産経新聞のこちらの記事で、アジアの大学ランキングが紹介されています。
「教育」という分野に興味をもちはじめて、様々な記事・書籍、講演から、世界の大学と比して、日本の大学教育の質が下がっているときいていました。その際に根拠とされるものの大抵が「予算が少ない」・「国際性がない」・「新たな研究が少ない(=特許数・論文数)」等です。
私自身は一次情報にあたっていないので、それらの主張の正当性はわかりません。興味本位ではありますが、こういったランキングがどのような観点で作成されているのか調べてみたので、まとめてみました。何か間違っている情報などあればコメントいただればと。
目次
世界大学ランキングを作成している組織は?
今回の産経新聞が紹介しているランキングは、The Times Higher Education(読み:タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)という組織が作成しています。
ザ・タイムズ・ハイアー・エデュケーション(英: The Times Higher Education)とは、イギリスのタイムズが新聞の付録冊子として毎年秋に発行している高等教育情報誌である。旧称ザ・タイムズ・ハイアー・エデュケーション・サプリメント[1]。略称はタイムズ・ハイアー[2]または THES。2004年からはワールド・ユニバーシティ・ランキングス[3](世界大学ランキング)を公表している。
出典:Wikipedia
世界大学ランキングはどうやって計算されているのか?
ランキングの順位で大学を比較するのは非常に簡単ではありますが、それだけでは大学の差異を正確に捉えられないのは、大学が研究の場・教育の場・社会とのつながりの話といった様々な側面をもっていることから考えても、自明であります。では、この世界大学ランキングは、どのような指標で決まっているのでしょうか。きちんと説明がありましたので、(ほぼ翻訳ですが)指標の説明をします。実は毎年微妙に内訳が変わっているようです。
参考
全体像
全部で5つの大項目、細かい分類だと13でスコアリングを行っています。
- Teaching (the learning environment):(教育、教育環境): 30%
- Reputation survey: 15%
- Staff-to-student ratio: 4.5%
- Doctorate-to-bachelor’s ratio: 2.25%
- Doctorates-awarded- to-academic-staff ratio: 6%
- Institutional income: 2.25%
- Research (volume, income and reputation)(研究の質や量、それがもたらす収入): 30%
- Reputation survey: 18%
- Research income: 6%
- Research productivity: 6%
- Citations (research influence)(引用、研究の影響度): 30%
- International outlook (staff, students, research): 7.5%
- International-to-domestic-student ratio: 2.5%
- International-to-domestic-staff ratio: 2.5%
- International collaboration: 2.5%
- Industry Income(産業収入)(全体評価の2.5%)
教育、研究、論文引用の3項目で全体の90%を占めています。また国際性や産業収入への影響は少なくなっています。
このことから、The Times Higher Educationでは、大学の教育機関・研究機関としての側面を最重要視していると考えられます。
続いてはそれぞれの指標がどのような項目を評価しているのか、具体的にみていきます。
ランキングの指標はどんな内容を評価しているのか?
Teaching (the learning environment)(教育、教育環境)
教育機関のレベルとして、論文の評判や生徒あたりの教員数、博士課程の学生数や博士課程における学部生の割合で評価されます。この指標は、博士過程の学生数が大学の学部数によって異なるのでおのおのの科目構成を考慮して正規化されています。
Research(研究の質や量、それがもたらす収入)
Academic Reputation Survey による、大学の評判や、論文をどれだけ学術誌に掲載できているかといった生産性によって評価されています。
Citations (引用、研究の影響度)
ジャーナル記事、会議議事録、書籍、および過去5年間にわたり出版された書籍に、どれだけ論文が引用されているかを、スコアリングしてます。大学の研究機関という側面をスコアリングしているといえます。
International Outlook(国際化)
世界中の学生・教授・スタッフの割合、すなわちどれだけ国際性があるかといった割合を評価します。
Industry Income(産業収入)
産業界へのイノベーションやコンサルティングを通した、教員当たり産業収入により評価します。
例えば東京大学のアジアランキングにおけるスコアは?
たとえば、東京大学のスコアはこちらから確認することができます。
今回のアジア大学ランキングの内訳は下記のとおりです。研究や教育は良い点数といえそうですが、研究の引用・影響度が低いといえます。合わせて10%分しかスコアに影響しないとはいえ、国際性と産業収入は低い数値であると言えそうです。
項目 | 点数 |
---|---|
Overall(全体) | 71.4 |
Citations(引用) | 62.4 |
Industry Income(産業収入) | 53.4 |
International Outlook(国際化) | 30.6 |
Research(研究) | 87.2 |
Teaching(教育) | 80.7 |
なお、総合ランキンの他、工学や人文といった学問別のランキングも用意されています。
ランキングの目的は?どういった影響力を持つのか?
さてこういったランキングはどういった目的で、誰に向けて作成されているのでしょうか。
ここからは個人的な見解になります。大学を選ぶ側の学生や保護者にとって、大学を選択する材料になる、とまずは考えられますが、実際はそういった判断に使える人ま国際的にみて少数と思います。留学や国際色豊かな保護者、よっぽど優秀な学生くらいしか関係ないのではないでしょうか?ただ、トップクラスの大学にとっては、少数であろうがなかろうがこういった学生を取り込むためにランキングをあげようとすると考えられます。
より大きな目的としては、国家予算の分配や補助金などではないでしょうか。例えば日本では大学数が多すぎるとも言われますが、こうしたランキングにのらないような大学より、ランキングにのってくるような大学に予算を分配していくのでないでしょうか。
まとめ
本記事では、The Times Higher Education が作成している大学ランキングについて紹介しました。注意しなければいけないのは、こういったランキングを作成している組織は複数あり、当然別の組織がランキングを作成すれば結果も異なっているということです。
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